雪街音楽メモ

聴いた音楽、気になった音楽、音楽の話題など、音楽のある日常を書きました。

CD『Waltz for Debby』 Bill Evans Trio(『ワルツ・フォー・デビイ』 ビル・エヴァンス・トリオ)

ワルツ・フォー・デビイ+4

ワルツ・フォー・デビイ+4

呼びかけ、応答する。脈打つ美しい演奏

ビル・エヴァンス・トリオ(ピアノ:ビル・エヴァンス、ベース:スコット・ラファロ、ドラムス:ポール・モチアン)が、1961年6月25日にニューヨークのヴィレッジ・ヴァンガード (Village Vanguardwikipedia:ヴィレッジ・ヴァンガード)でライブ演奏したものの、20 bit digitally remastered。
このライブの11日後の7月6日、スコット・ラファロwikipedia:スコット・ラファロ)は交通事故死した。25歳の若さだった。アルバムから、3人の音それぞれが傑出して聴こえてくる……特に、ビル・エヴァンスのピアノとスコット・ラファロのベースのかけあいは比類が無い。それでいて、それぞれがぴったり寄り添って、彼らの目指す方向は一緒である。信頼と密接な関係、通い合う息と心。繊細に注意深くコントロールされた、美しい音色とリリカルな表現。その彼ら3人のトリオはスコット・ラファロの死で終わってしまった。

わたしは、わたし自身がアンサンブル演奏をする際の理想・目標として、「このアルバムの彼らのような演奏を少しでもやってみたい」と思っている。自分のようなアマチュアでも時々、合奏していてお互いがどう行きたいか、何をやればいいかがわかるときがある。約束事を守りながら、しかし、自分を出し、また逆に相手の出したものに合わせたり応じ返したりする……そうやって刺激しあったり心を合わせたりしていくうちに、どんどん音楽が高まっていくのを感じる瞬間がある。そんなときはきっと、彼らの演奏に近いことがわたしたちも(ちょっとだけ)出来ているのではないかと思うのである。

ビル・エヴァンス―ジャズ・ピアニストの肖像

ビル・エヴァンス―ジャズ・ピアニストの肖像

あのトリオの特徴は、共通した目的と可能性を感じていたことだ。われわれが演奏するにつれ音楽は発展し、実際の演奏を通じて形になっていった。信頼のおける形で結果を得るのが目的だった。もちろん、リード楽器だったので、私が演奏を整頓した形になったかもしれないが、独裁者になるつもりはなかった。もし音楽自体が応答を引き出せないのなら、それには興味はない。

ピーター・ペッティンガー『ビル・エヴァンス―ジャズ・ピアニストの肖像』(相川京子訳、水声社、1999)第十章「サンデイ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード」、ビル・エヴァンスのインタビューから p.139〜140

最も素晴らしいのは、彼*1とポールと私は、口には出さなかったにも関わらず、自分たちに制約を付けずに、自分たちの望む展開をもたらせるように、音楽に取り入れたいと思っていたある種の自由さと責任感について、全員合意していたことだ。

同 p.140

本当に素晴らしい結果を求めるなら、とても注意深く、創造的に、規律と自由を混ぜる必要がある。私は音楽はみなロマンティックだと思っているが、もし陳腐になるのなら、ロマンティシズムは邪魔である。一方、規律に基づいたロマンティシズムは美の最も美しい形態である。そしてこのトリオでは、まさしくそのような組み合わせが始まろうとしていた所だったと思うんだ。

同 p.141

ビル・エヴァンス・トリオの演奏による「ワルツ・フォー・デビイ」。ジャズの特性からいって、アルバムと同じ演奏がなされているわけではない。アルバムより音数が多く、やや緊迫感のある印象。