雪街音楽メモ

聴いた音楽、気になった音楽、音楽の話題など、音楽のある日常を書きました。

小谷美紗子「The Stone」

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…「The Stone」(ザ・ストーン)所収アルバム

小谷美紗子「The Stone」

1997年10月リリースのバラード。1998年7月〜8月に全5回として放送されたNHK水曜ドラマ『結婚前夜』の主題歌として使われた。

もう二人のアルバムには いつからか写真がとぎれたまま
白いもの足りなさそうな 新しいページは黄色にやけて染まって行く

みにくい冷たい秘密を
砂にして流しても
あんなにすごかった二人の気持ちには勝てないの

歌詞に描かれている世界は抽象的なようでいて、明確に述べられており鋭く鮮烈なイメージ、鮮やかな映像となって心に迫ってくる。イメージは痛切で、切なくて、美しく儚い。空間的にも時間的にも壮大な…時や空間を超越したような愛と別れのうた。
サウンドはというと粒立ちのよい澄んだピアノ(しかし決して音色ははしゃがない)が時に波のようにたゆたい流れ、時計のように音を刻む。そのピアノを覆うようにホルンセクションが柔らかに絡んでいき、ベースが深みを出す……。

主題歌として使われたドラマ『結婚前夜』は野沢尚氏の脚本で、同氏による同年の作品『眠れる森』と合わせて第17回向田邦子賞を受賞した。下町でガラス職人の父と共に静かに暮らす引っ込み思案なガラス職人・篠田奈緒夏川結衣奈緒の幼なじみで同級生、調子が良くて物腰の軽い会社員・高杉正人をユースケ・サンタマリア、正人の父で大学講師・ミステリー作家の洒落た50男・楯夫を橋爪 功、奈緒の父のガラス職人を井川比佐志、奈緒の妹とナレーション役を京野ことみ、楯夫の古馴染みのバーの店主にして恋人?を余貴美子が演じる。江戸ガラスの風鈴の音、日傘、祭り、夜明けの散歩など夏の要素がいっぱいの中、大人の静かな、しかし熱情を心の底に秘めたドラマとなっており、5回というミニシリーズながら不思議と深く心に残るのだ。*1
ドラマではラストシーンでこの曲「The Stone」のピアノのアルペジオのイントロが流れてき、歌につれて次回予告となっていく。最終回のラストでは教会での結婚式の場面に流されされている。しかし曲の歌詞を読むと、決してハッピー一辺倒ではない、深淵にも似た悲しみと甘美な別れがあったのだということを歌っている、そんな曲が結婚式の美しく幸せな光景とともに流され、このドラマは締めくくられたのだ。

*1:特に「奈緒」がなんとも繊細でみずみずしい。普段は地味で寡黙で、しかし酔っぱらうとおしゃべりになり、時々の激情が実は心の中の嵐を想起させる。妹によれば、奈緒は時々『はじけてしまう』らしいのである。その不思議な魅力を夏川結衣は若々しく透明に演じだしている。