雪街音楽メモ

聴いた音楽、気になった音楽、音楽の話題など、音楽のある日常を書きました。

宝塚歌劇団宙組公演『翼ある人びと―ブラームスとクララ・シューマン―』DVD鑑賞メモ 名曲とともにある繊細な傑作

宙組 シアター・ドラマシティ公演DVD『翼ある人びと ―ブラームスとクララ・シューマン―』

2014年7月25日、DVDで観劇。音楽史の中の有名人たちが登場、名曲とともに繊細に情感を演じる音楽劇になっていた。

若き日のヨハネス・ブラームス朝夏まなと)と、ロベルト・シューマン(緒月遠麻)、クララ・シューマン伶美うらら)夫妻との交歓を、ある女性の回顧として描いた作品。
ロベルト・シューマンと若きヨハネス・ブラームスに関しては、音楽家同士の美しい交歓……自分が何に心を砕いているか一瞬でわかってもらえ、わかちあえる人と出会えた喜びがまっすぐ描かれていて(特にロベルト・シューマンが慈愛ある風情)、そこはこちらもまっすぐ受け取ろうと思って、羨望もあり痛ましくもあり―いちおう音楽史的にシューマンのその後を知っているから―、最近涙もろくなっているので、つい泣けてしまう。
朝夏まなとさんの濁りの無い風情、緒月遠麻さんの懐の深い演技、柔らかい声、伶美うららさんの気品と強靭な美しさ。それぞれの持ち味がいきる。リスト役の愛月ひかるさんの派手でスマートな動きの裏に見せる誠実さも好もしかった。

ブラームスの第三交響曲」について

ブラームスの第三交響曲」、交響曲第3番第3楽章がいわばテーマミュージック的扱いで様々な場面で流れるのだけれど、原曲(?)の通りのシンフォニーではなく、ドラムやロマン派色の濃いピアノアルペジオ等が加えられ、甘く激しいアレンジメントが施されている。
特にピアノアルペジオには驚いたのだが、実のところ、交響曲第3番はブラームス自身が「4手のためのピアノ曲」としてピアノ連弾や2台4手用に編曲もしていて、その編曲の場合、シンフォニーで木管等が担当していたアルペジオをピアノで行われる。今回の舞台でのピアノアルペジオは、連弾編曲のこのピアノを付け加えていたのでは無いか、と後から気付いた。

しかしブラームスの音楽はこの甘さにも合っていて、やはりロマン派であったのかとも思い知らされる体験でもあった。

作品中で使用しているクラシック曲一覧

作曲者名は(ショパン以外は)登場人物たちでもある。DVDリーフレットから


クレンペラー指揮、フィルハーモニア管弦楽団ブラームス交響曲第3番。第3楽章 http://youtu.be/xu6hWEeTneA?t=21m21s

「頂から降りるんじゃなくて、いつか翼をつけて空へ行くんだ!」

ロベルト・シューマン死の床でヨハネス・ブラームスにこう言って聞かせる。

いつか君は山の頂の先に何があるかと聞いたね。私たちは麓から頂まで登っていく。頂からもっと歩き続けると、いつか空まで行く。頂から降りるんじゃなくて、いつか翼をつけて空へ行くんだ!ヨハネス、おそれるな。

飛翔する音楽


以下は個人的な感覚として。

2012年秋、ルーブルサモトラケのニケを観たときもう本当に衝撃的だった。
私自身いつも演奏の時に重力や自然の力をどう扱うかを考えている。この彫像の重力の利用の仕方……重力に抗い飛翔しようとする力と精神はだからとても参考になった。この姿をイメージして、ニケのように飛翔する演奏をしたい、と思ったのだった。
そして今回、シューマンブラームスや上田久美子さんや宝塚の人たちとはとうてい比べることも出来ない私ではあっても、シューマンの台詞で端的に、同じようなこと考えているんだな、と分かったのはうれしかった。
個人的には、ロベルト・シューマンの緒月遠麻さんの深い演技が心に残っている。とても好きな作品である。