雪街音楽メモ

聴いた音楽、気になった音楽、音楽の話題など、音楽のある日常を書きました。

宝塚歌劇団星組公演『眠らない男・ナポレオン ―愛と栄光の涯(はて)に―』 観劇メモ

星組 宝塚大劇場公演DVD 『眠らない男・ナポレオン―愛と栄光の涯に―』

2014年2月22日、東京宝塚劇場で観劇。

若きナポレオン2世オーストリアで名も変えて暮らしているが、2歳の時に引き離され記憶にない父のことを知りたくなり、たくさんの回想録など取り寄せて調べてみたらどれも残酷な独裁者という悪評ばかりで打ちのめされている。
そうではなかった、と、年老いたマルモンは、ナポレオンがどれほど傑出した存在感であったかをじゅんじゅんと聞かせる。その、マルモンの回想談、というのがこの劇のしつらえなので、ナポレオンについては伝記的に、士官学校の雪合戦エピソード〜エルバ島流刑直前までを駆け足で描いていく。戦争やクーデターなどリアルな武力行使といった血生臭い場面になりそうな箇所は、過去の名画などをスライドのように写しながら活人画・説明台詞などで通過する。

反面、ジョゼフィーヌとの出会いやラブシーン(もしくは愛を断ち切るとき)は宝塚らしくたっぷり描かれ、よって、

  • ナポレオンのパートは伝記のスピード感、史実中心、時間経過のスピードはやい
  • ジョゼフィーヌ絡みのパートは心情中心、時間経過緩やか

になるため、見る人によっては主役がナポレオンではなくジョゼフィーヌに思えてしまうようだ。

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"Jacques-Louis David, The Coronation of Napoleon edit" by Jacques-Louis David - Edited version of: File:Jacques-Louis David, The Coronation of Napoleon.jpg Who is Who. Licensed under Public domain via ウィキメディア・コモンズ.

舞台装置も衣装もかなりお金をかけているそうで、特に、戴冠式の絵画再現場面はなかなか豪華。軍人たちの軍服が変化していくのも興味深い。ナポレオンの絵画(アルプス越えなど。ダヴィッドちらりと登場)を踏まえたと思しきシーンが多々あり、美化した絵画を皮肉るところなどかなり面白かった。

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"Jacques-Louis David 007" by Jacques-Louis David - The Yorck Project: 10.000 Meisterwerke der Malerei. DVD-ROM, 2012. ISBN 3936122202. Distributed by DIRECTMEDIA Publishing GmbH.. Licensed under Public domain via ウィキメディア・コモンズ.

生徒(出演者)さんたちはみな熱演、主役二人(柚希礼音・夢咲ねね両氏)についてはあてがきされていたとのことで、役を体現して説得力あり。歌も演奏も楽しく聴けた。

イコノグラフィー、「ヴァニタス」

この舞台には戴冠式はじめ絵画からの引用場面がたくさんあった。

ナポレオンが眠らずにひとり向かう執務机にはゆらめく蝋燭が、また、ダヴィッドが出てきた(理想化した絵を描かせることを皮肉る)シーンではナポレオンに地球儀をいじらせていた。この蝋燭、地球儀、というのは、西洋絵画だとヴァニタス……人生のむなしさはかなさや虚栄の寓意になる。

私の深読みで勘違いだったとしても、この舞台においてはそれらをイコノグラフィーとして捉える妥当性はあるように思えた。

なお現存している「ナポレオンの地球儀」はこの舞台で使われた普通の(大きめの)地球儀、とは全く形状が違い、とても大きい。フォンテーヌブロー宮殿にあるとのこと。