雪街音楽メモ

聴いた音楽、気になった音楽、音楽の話題など、音楽のある日常を書きました。

CD『ポートレイツ』 村治佳織(Portraits - Kaori Muraji)

  • SHM−CD仕様、DVD付限定盤

ポートレイツ(限定盤)(DVD付)

ポートレイツ(限定盤)(DVD付)

  • 通常盤

ポートレイツ

ジャケットの絵柄は、初回盤と通常盤は違うとのこと。

部屋の片隅でギターを弾いてくれているようなサウンド作り、暖かみのあり親しみやすく優しい演奏

ギタリストとしての全てを賭けて挑んだ、村治佳織 待望のソロ・アルバム!
「ギターで聴きたい名曲たち」というコンセプトのもと、ギタリストとして考えられる、あらゆるテクニック(トレモロピッキングハーモニクス、ミュート、フラメンコ、パーカッシブ奏法など)を駆使して挑んだ会心作です。英国に敬意を表し、エリック・クラプトンとレノン&マッカートニーの各作品、坂本龍一の「戦場のメリークリスマス」「エナジー・フロー」など、ギター一本で信じられないサウンドを創出。以前から取り組んできた、武満徹の『ギターのための12の歌』は今回で完結。アンドリュー・ヨークの「サンバースト」は、イントロダクション付きの完全型で再録音。ビートルズの「イン・マイ・ライフ」では、名ギタリスト、イェラン・セルシェルが自身のアレンジを村治佳織に提供しました。バーンスタインの名作『ウェスト・サイド・ストーリー』からは「アイ・フィール・プリティ」「マリア」「アメリカ」をメドレーで。2010年のショパン・イヤーを前に、夜想曲第2番も収録、等々、大変多彩な内容となっています。

村治佳織 | Kaori Muraji - UNIVERSAL MUSIC JAPAN

限定盤(asin:B002L48GF4)を購入して聴いた。
上記の通り、耳馴染みのある有名な曲がほとんどだ。ピアノ曲・ポップス等。それらを村治佳織クラシックギターで弾いているのだが、どの曲も元のオリジナルよりも優しく小振りに、掌で慈しめるようなサウンドに仕上がっているように思う。それはクラシックギターの特性・特徴をうまく生かしているのだ、とも言える。元々、クラシックギターは他の楽器を圧倒するような大きな音量は出ない。部屋で弾いても騒音にならない。金属的ではない甘い音が出る。
そういったギターならではをうまく生かしているから、目を閉じればまるで村治佳織が(広めの)部屋の向こう側で弾いてくれていて、自分は片隅でいすに座って聴いている……といったサロンコンサートのような光景が想像できてしまうのだ。

弾き方としては、安定したテクニックで安心して聴けるのはいつも通りだが、どれもほんの少しテンポをゆっくりめに(もっと速く弾けるはずなのに)、タンゴなどをのぞけば音を柔らかく甘く、時にはややくすんで聞こえるような音色で演奏しているのがこのアルバムの特徴か。チューニングも甘めだ。それはあえて「わざとぴったり合わせてはいないのでは」と思いたい。チューニングのわずかなずれで和音が濁る。それゆえしぜん、強く澄むことなく柔らかくゆらぎのある音になるのである。

坂本龍一の曲をギターで演奏

どの曲も興味深いが、なかでも坂本龍一の「戦場のメリー・クリスマス」「エナジー・フロー」は音がすごくきれいに分離して聞こえて、でも暖かみがあって新鮮な驚きを覚えた。ピアノで演奏されるよりギターで演奏した方がぐっと半径が狭まる感じ。

「サンバースト」、時の流れ

アンドリュー・ヨーク作曲のギター曲「サンバースト」は再録である。

CAVATINA

CAVATINA

1998年発売で彼女がブレイクすることになったアルバム『カヴァティーナ』の1曲目にも当時の演奏が収められている。そちらは力強く、音は鮮やかな硬さを保ち、リズミカルで躍動するような「サンバースト」だ。*1
いっぽうで、今回の『ポートレイツ』ではイントロダクション(序曲)から演奏しているのが珍しく─ 一般に、イントロを省いた演奏が多い─、また、少し遅めのテンポにして音を優しく出している、穏やかな「サンバースト」を楽しめる。この二つのアルバムでの演奏の違いはアマゾンのレビューで、bunzoさんが詳しく指摘されているので参考にされたい。11年経過し、村治佳織の成熟を感じることが出来る。

村治佳織の成熟」、円熟について。彼女のこのごろのアルバムでは、彼女の10代、20代前半のアルバムに比べると禁欲的ともいえるくらい端正な演奏になっている。
素直に曲を解釈し、丁寧に、誠実に、激せず美しく弾く。
そういった彼女の演奏を「起伏に乏しい」「音量が小さい」(彼女は元々、大音量を誇るギタリストではないが)と感じ、好まない人たちもかなりいるだろうと思う。ただ、わたしは、彼女のこういった端正さは好きだし、これはこれで良いと思っている。
そして時折、一瞬にして日が差し込むように音色が移ろうのである。それまでの濁った柔らかい音から硬質な鮮やかな音に。そしてまたゆっくりと音色が変わる。そういった音色の変化がこのアルバムでは随所に仕掛けられている。それもまた彼女の演奏の成熟だろうと思う。

『ポートレイツ』収録曲

  • 1.戦場のメリー・クリスマス (坂本龍一:作曲/佐藤弘和:編曲)
  • 2.タンゴ・アン・スカイ (ローラン・ディアンス:作曲)
  • 3.ティアーズ・イン・ヘブン (エリック・クラプトン&ウィル・ジェニングス:作/佐藤弘和:編曲)
  • 4.ジョンゴ (パウロ・ベリナティ:作曲)
  • 5.エナジー・フロー (坂本龍一:作曲/佐藤弘和:編曲)

《「ギターのための12の歌」 (武満徹:編曲)》より

《「ウェスト・サイド・ストーリー組曲レナード・バーンスタイン:作曲/J.モレル編曲)》より

  • 11.アイ・フィール・プリティ
  • 12.マリア
  • 13.アメリ

村治佳織(ギター)
録音:2009年6月 イギリス、ポットン・ホール

おまけ アンドリュー・ヨーク自身が演奏している「サンバースト」

*1:他のギタリストたちもこういった雰囲気で演奏されているものが多いと思う。